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熊本管工建設株式会社
(熊本県熊本市)

髙井さん、谷本さん、中村さん、堀口さん熊本管工建設株式会社は、都市ガスの導管(パイプライン)の建設・保守点検を専門的に行う熊本市で唯一の会社である。
従業員数は51名(2025年9月現在)。
今回は、代表取締役社長の谷本篤史さん、取締役企画部長の髙井俊志さん、企画部係長の中村優美さん、同社が産業保健業務を委託している機関の保健師である堀口真愛さんにお話を伺った。
雑談や現場訪問を通じて従業員と信頼関係を築き、従業員が安心して働き続けられる職場文化を育んでいる。
最初に、働きやすい職場づくりのために実施している取組みについてお話を伺った。
モデルは全員社員!映画風「会社紹介ポスター」
従業員が安心して働き続けることのできる職場づくりのために、人事制度の整備や業務の責任の細分化などに取り組んでいます 「当社はガス導管の工事を行っています。工事現場は、当社の従業員3~5人で編成する工事班と、協力会社の方々で協力して作業を進めています。従業員1人で作業を行うことは基本的にはありません。班の編成は、以前は固定していたのですが、最近は、一定期間様子を見ながら柔軟に入れ替えを行い、現場の状況や個々の特性に応じてその都度最適化しています。」
「こうした運営の形をとっている根底には、私(谷本さん)が大切にしている2つの言葉、『安心・安全』と『人を大切にする会社』があります。」
「従業員には『この会社で働き続けたい』と思ってほしい。その一環として、やや陳腐化していた人事処遇制度を全面的に改定し、安定と成果反映のリバランスや評価と育成を一体とする仕組みがスタートしました。業務の責任を細分化し、それぞれの部門の担当者に裁量権を多く持たせることで、自ら考えて動ける仕組みを整えることができてきたのではないかと考えています。」
「こうした取組みのおかげで、従業員の定着率は上がっており、近年は会社や職場が原因で退職する従業員はいません。以前は採用にも苦労していたのですが、8年ほど前から徐々に新卒での入社が増えており、直近5年間では10人以上が入社しました。」
上司と部下との個人面談では、部下の話をじっくり聴いた上で伝えることを意識してもらっています 「また、上司と部下の個人面談を年2回実施することにしています。上司には、“じっくり聴く姿勢”を意識してもらっており、その上で上司自身の考えも伝え、互いに本音で話し合う時間を大切にしています。この“聴いて伝える文化”が、社内の従業員間の信頼関係の基盤になっていると考えています。併せて、特に若手従業員に対しては、業務量や仕事内容が適正であるかを確認し、必要に応じて調整することもしてもらっています。」
「かき氷屋」の様子。社長自ら現場へ! 現場訪問を通じて従業員と信頼関係を築き、自然な会話を通じて安全意識と連携を高めています 「その他、当社の特徴として、“雑談の中のコミュニケーション”を大事にしているところがあると思います。昔から、現場でのちょっとした雑談が多い会社ではあったのですが、若手従業員が壁にぶち当たっている理由は、『できない』ではなく『やり方が分からない』であることが多いので、日々の会話の中で『じゃあどうする?』と自然に話し合える空気を作ることを重視しています。私(谷本さん)自身も工事現場に時折足を運ぶようにしているのですが、パトロールや検査に来たと感じられないように工夫しています。例えば、今夏は猛暑でしたので、業務用のかき氷機を車に積んで、現場で“かき氷屋”を開いてみました。従業員や協力会社、警備員の方々と一緒に涼を取りながら会話する中で、現場の安全や衛生状況、従業員間のコミュニケーションをさりげなく把握することができます。こうした“雑談の中のコミュニケーション”が、自然に安全文化と相互信頼関係を育てていると思います。」
メンタルヘルス不調に早期対応するため、産業医・保健師と契約し、全員面談やストレスチェックの実施、相談しやすい環境の整備など、支援体制を整えている。
次に、産業医契約や、保健師による全員面談、ストレスチェックなどのメンタルヘルス対策全般についてお話を伺った。
仲間を想い支え合う社風 労働者50人未満の事業場の頃から産業医契約を行っています 「当社の現在の従業員数は51名ですが、産業医の選任義務のない従業員数50人未満の頃から産業医と保健師の契約を行っています。きっかけは、2020年頃から徐々に高齢従業員の体調不良や、メンタルヘルス不調による休業者が現れたことでした。」
「以降、産業医と保健師(堀口さん)に隔月で訪問してもらい、健康相談や職場巡視を行っています。初回訪問時には、朝礼で従業員に2人を紹介し、顔合わせと役割説明を丁寧に行うことで、『どんな人か分からないから相談しにくい』という壁を無くすところから始めました。心の悩みや不安は、本人にしか分からないからこそ、気軽に相談できることが大事だと考えています。」
保健師による全員面談を順次実施しています 「保健師による訪問を導入後は、全従業員を対象に保健師による個別面談を順次実施している他、体調や様子が気になる従業員との面談を随時実施しています。面談を希望する従業員がいる場合は、本人や上司・同僚から社内担当者である中村さんに連絡してもらい、中村さんが保健師の訪問日に合わせて個別面談の予定を調整しています。保健師による面談実施後、医療的な支援が必要な場合は産業医面談につなげますし、職場環境や労務管理の課題が見つかれば、本人の同意を得た上で改善提案を行います。このように、社内担当者・保健師・産業医・会社が一体となってメンタルヘルスを含む職場の支援体制を築いています。」
法に基づくストレスチェックを実施し、高ストレス者への医師の面接指導や集団分析も行っています 「2022年4月に産業医契約したことと併せて、産業医が所属する労働衛生機関に外部委託する形で、法に基づくストレスチェックの実施も開始しました。高ストレス者から申出があった場合は、まず保健師が面談を行い、必要に応じて産業医の面接指導へとつなげています。集団分析結果も、部門ごとの特徴などを産業医が説明しています。集団分析結果を踏まえたラインケアセミナーも開催しました。健康リスクの高い職場に対しては、保健師による面談も行っており、従業員のリアルな声を踏まえて集団分析結果をさらに読み解き、経営に反映する貴重な機会になっていると考えています。小規模の会社だからこそ、従業員一人ひとりと向き合い、経営活動にも反映させていくことができる意義ある取組みであり、当社の強みでもあると思います。」
産保センターの支援のもと、ストレスに関する調査を実施したことがあります 「法に基づくストレスチェックを実施する前に、ストレスに関する調査を実施したこともあります。ストレスチェックの義務化が社会的に話題になった2012年頃に、独自で“職業性ストレス簡易調査票フィードバックプログラム”を利用して、個人・部署単位での分析を何度か行っていました。その時は、結果の読み取り方が分からなかったので、集団分析結果を持って熊本産業保健総合支援センターの心理職の相談員に相談に行きました。そこで、一例として、“現場責任者のストレスが高い”といった指摘を受け、私(中村さん)からも、現場での働き方やその様子を相談員に説明した上で、一緒に考えて、休暇の取りやすい環境整備などの改善策を1シートにまとめ、経営会議でも共有しました。実際の職場改善にもつなげることができ、今行っている法に基づくストレスチェックの土台となった経験でした。現在も熊本産業保健総合支援センターにはお世話になっており、相談に行ったり研修を受けたり活用しています。」
面談での従業員の声をもとにトイレ増設や世代別懇談会、イベント実施などで職場環境改善を推進。職場の人間関係を円滑にし、誰もが前向きに働ける環境づくりにつなげている。
最後に、ストレスチェックの集団分析や全員面談などから出てきた課題や要望に対して行った職場環境改善についてお話を伺った。
フィッティングボードを備えた「誰でもトイレ」 職場環境改善の中で社員の要望からできた「だれでもトイレ」が好評です 「ストレスチェックや個別面談の取組みを進める中で、さまざまな課題や要望が見えてくるので、それらを踏まえて職場環境改善につなげています。たとえば、面談で寄せられた意見を踏まえて女性従業員と経営者との意見交換会を開催したところ、女性用トイレを増設してほしいという意見が出ました。当時、女性用トイレは1つしかありませんでしたので、車椅子でも利用できるバリアフリー仕様の“だれでもトイレ”を新たに増設しました。“だれでもトイレ”にはフィッティングボードも備えています。女性従業員からは、『安心して働けるようになった』、『環境が整い仕事のやる気が出る』と好評です。また、事務所の改修時に、畳の休憩室を新たに作ったところ、くつろぎと交流の新たなコミュニケーションの場になりました。こうした職場環境改善の実績を社外にも発信することで、女性の応募者が増えるなど採用面にも好影響をもたらしています。」
「世代別懇親会」を行うことで、お互いの理解が深まりました 「また、当社は18歳から60歳代のベテランまで幅広い世代が在籍しているのですが、若手従業員からは『現場で上司に声をかけづらい』、反対にベテランからは『部下に指示をするとハラスメントになるのではないかと気がかりだ』といった声が出てきました。こうした世代ごとの特徴を知り対策を考えるために実施したのが、“世代別懇談会”です。20代・30代・40代と世代別に懇親会を開き、私(谷本さん)を含む経営者や役員も交えてざっくばらんに語り合う機会を設けました。若手従業員にとっては、経営者や役員は特に話しかけづらい存在だと思いますが、懇親会の中で積極的に声かけをすることで少しずつ会話が増え、『そんなふうに思っていたのか』とお互い理解が深まってきています。世代で特徴を決めつけず、一人ひとりの特性を尊重する姿勢が大事だと実感しています。」
バレーボール大会 大抽選会も大盛り上がり! イベントを通じて、コミュニケーションの活性化につながっています 「その他、コミュニケーションを活性化する機会も意識的に設けています。たとえば、バレーボール大会やボウリング大会などのイベントを定期的に開催しています。従業員の7割以上が参加するなど高い参加率を誇っています。くじ引きでチームを決める方式にすることで、普段あまり話さない人同士が自然に打ち解ける工夫をしている他、個人戦ではなく団体戦にすることで、互いに励まし合うなど交流が深まっています。車通勤者が多いので、運動する機会を作る意味でも効果があると考えています。」
社長自ら穏やかで前向きな職場文化と自然に話せる空気づくりを意識しています 「コミュニケーションは会社の基本です。人材への経営投資の中で最も重要なのが、従業員同士のつながりを強めることだと考えています。私(谷本さん)の役割は、世代間のギャップを埋める“緩衝材”です。ベテランと若手双方の声を聴き、雑談の中から会社の方向性を探っていく。その柔らかな関わり方が、当社の穏やかで前向きな職場文化と自然に話せる空気づくりにつながっていると思います。そして、従業員を大事にしないと会社は変わりません。従業員が『もっとこうしよう』と前向きに動ける環境が大切だと考えています。」
ガス導管工事は、普段人目に触れることはありませんが、生活を支える重要な社会インフラです。だからこそ、働く人の心と体の健康を守ることが、社会の安心にもつながると考えています。従業員の声に耳を傾け、一人ひとりを大切にする姿勢が、当社の活力の源泉であり、未来への投資そのものだと考えて、これからも邁進していきます。」
【取材協力】熊本管工建設株式会社
(2025年12月掲載)
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